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レジェンドが来た日

「人生は、一回だよ」

この言葉を、何度も私に伝えてくださった人がいます。

その人の事はいつか、この店長日記に登場させたいと思ってました。

77歳。私の中で”レジェンド”と位置づけているその人が、

まだまだ暑かった今月初旬、待望のご来店!

 

約30年間、自分の美容師人生とかぶる年数分、通っているクリニックがあります。

まだ美容師免許も持っていなかった見習い時代、

ある日の営業中、

いきなり顔中に蕁麻疹が出てきたかと思えば、時間とともに全身に広がってきました。

セット面の鏡にうつる蕁麻疹だらけの私を、かわいそうに思ったお客様が

「すぐそこに、皮膚科でいい先生おるから、今すぐ行っといで」

オーナーの目の前でお客様がそうおっしゃったので

まさかのオーナーからも

「ほんまや。すぐ、行っといで!」と。

当時は営業中に抜けて病院なんかに行かせてもらえる雰囲気のお店では無かったので、

体中に出ている私の蕁麻疹よりも、

オーナーのその「行ってこい」の一言に、スタッフ一同が驚いた。

これがこのクリニックとレジェンドとの出会いでした。

このクリニックにて

元々、アトピー性皮膚炎を持っている私は

突発的に顔や身体中に出てくるアレルギー、

以前は慢性的に腫れていた扁桃腺、

定期検診で、“要再検査”と判定された時などの再検査。

内科、皮膚科をメインとして、いろんな身体の不調を診て頂いてきたクリニックです。

 

診察室では、

「文野さん、人生は一回だよ」と

身体だけでなく、仕事中心の生活を送る私に、

メンタル的な事にも触れて診てくださった先生。今回書きたいレジェンドです。

 

この長きにわたりお世話になっていた担当医のレジェンドが、

そこで45年間の開業医生活を無事に終えて先日、引退されました。

 

77歳。まだまだ、医者としてやっていけるけど

「人生は一回だから、このままで終わりたくないから」

これからの人生を楽しむための、引退。

 

「いい”城”じゃないか」

お店に入って来るなり、そうレジェンドが言ってくれたのは

とても嬉しかった。そして、

「頑張ったねぇ〜」とも言ってもらえました。

 

お店をオープンした時、お客様から

「すごいね」と言われた時と

「がんばったね」と言われた時とあります。

あまり、この気持ちに対して自分の気持ちを深掘りしていないのですが

「がんばったね」の方が、なんだか私は嬉しい。

その「がんばったね」の一言に(結果は何であれ)

一つ、自分で何かを終わらせた。

ひとまず、何か到達点を持てたことに、ねぎらってもらえた様な気がします。

私がこのレジェンドとの”神回”と思っている診察があります。

 

その時私は30代前半、またもや、ものすごい蕁麻疹に襲われます。

この時、私の美容師人生で、最も休まず仕事もしたし、

収入もやればやるだけどんどんアップし、

今みたいにコンプライアンスにうるさくなかった時代で

アシスタントにも自分の熱い気持ちを、熱いまま伝えることができたので、

(うまいこと言いましたが。。。)何でも言えた。

何時間でも休憩なしで、一緒に働いてもらえた。

いわゆる、私が一番”調子に乗っていた”時代。

 

なかなか蕁麻疹が治らないこの時に、レジェンドにある日の診察で言われたこと。

 

「仕事だけしとったら、あかんで。

頼まれてもないのに、そんだけ休みもなく働いてたら

わかりやすく役には立ってるやろうし、お金もあっていい気分かも知らんけど、

ひょっとして、文野さんは

”いい人になりたい”だけじゃないのか?

文野さん、人生は、一回だよ。もったいない」

 

ハリセンで、頭を叩かれたみたいな感覚と

”いい人になりたいだけ”なんて言われると思っていなかった悔しさで

「もう二度と来るもんか!」と

その時はそう思った事を今でも覚えています。

もう10年以上前の事を、こうやって一言一句思い出せるから

きっとすごく衝撃だったんだと思います。

 

この診察のあの言葉が、直ぐには受け入れれなかったけど、

ずっと頭から離れなくて、

悶々と考える毎日。そうは言っても、毎日仕事は大忙し。

ほどなくして、ある日朝起きたら、

夜中に自分で掻いてしまったのか、薬の副作用だったのか

パンパンに腫れあがっている自分の顔を見て、絶句する。

 

この時を節目に

今も続けているヨガやフットケアを始めたり、

会社にお願いして、

私だけ火曜日を定休日に固定して休ませてもらうようになりました。

今回ご来店くださった時に、その”神回”の話をしたら、レジェンドは

「僕、そんなんゆうた?」

そして、続けます。

「でもこれから先も文野さんは、ここで頑張るって決めたんだろ。

今、文野さんがこのお店をして”幸せだ”と思うなら

その幸せを持続させたかったら、自分が成長するしかないんだよ。

だってこの先は人として、

”技術の実力以上の魅力”がいる。

(そのためには)

”生活”を大事にした方がいいねぇ。

少しずつでいいから

美味しいモノを、味わって食べる。

面白いモノを見に行く。旅行に行く。

”生活”が充実していないと、今より視野が広がらない」

 

軽めのハリセン攻撃の後、さらに、続きます。

「僕は、次の自分のやるべき事、やりたい事が見えてくるときは

いつも戦っている最中だった。

毎日、目の前の事に必死にやって、何か少しそれが、形になって来たときに

”このままで、自分は良いのかな?

”このまま、ここで終わりたくない”って思った。

だって人生は一回だから。僕はいつもこれがベースにある」

 

そう言う事だけ言って、

眉毛ともみあげと襟足の白髪だけ染めたカラーの後のシャンプー中は

スースー寝息を立てて、寝ていたレジェンド。

 

過去に”神回”の話を、

あるお客様にしたときに言われたことを思い出します。

「親ってね、いつしか自分の子供に言いたいことが

言えなくなるの。

だから、その先生みたいに

親が言えない事を言ってくれる、親じゃないけど親みたいな

大人が身近にいるって、あなた、ラッキーよ」

 

来年に向けて、自分が考えている

自分との向き合い方、やってみたい事、そこに肩を押してくれたレジェンド。

また来てくれるかな。