窓辺のひだまり
”津軽びいどろ”の一輪挿し。
友達夫婦が青森を旅行して、お土産に買ってきてくれた。
日本の四季の美しい色合いをハンドメイドガラスで表現しているという。
私が頂いたのは、青々と茂る稲が風に揺れている風景をイメージした
”夏の田園”
いつもお世話になっている近所のお花屋さんに、この花器を見せて
似合うお花を選んでもらい、挿す。
彩りだけでなく、私が気に入ってるのはこの”丸み”
掌で感じる丸みと、ガラスの厚みと重さは独特で、
湾曲した立体の中で織りなす色が、窓辺の日を浴びると幾千ともいえる彩りになる。

今月、久しぶりに漫画を読んだ。
インスタグラムをフォローしているFM COCOROの”まちゃお”こと
DJ野村雅夫さんが
【ひだまりで読みたい】
と標題を付けてインスタグラムにアップしていたのが
『うみべのストーブ』(大白小蟹短編集)

まちゃおこと野村雅夫さんは
お父さんが日本人。お母さんがイタリア人。イタリア・トリノ生まれの滋賀県育ち。
ラジオのDJだけではなく、イタリアのものを中心に
映画の字幕製作や配給、上映イベント、トークショーを企画したり
イタリア翻訳をこなし、Eテレ語学講座「旅するイタリア語」テキストに
エッセイも連載している。
FM COCOROの番組の中で、まちゃおに薦められて観に行った映画は
どれもハズレがなく、他にも番組の中やインスタグラムで紹介している
物、人、本、場所、イベントは気になる物が多い。
私の文化的なアンテナをくすぐってくる。
今回『うみべのストーブ』を読もうと思ったのは
まちゃおがこの本についての感想を書いたインスタグラムの、
最後の締めくくりに、くすぐられた。
「セーターを着込んで、休みの日に窓辺のひだまりに
足を伸ばして読むのにぴったりでしたよ。」
内容うんぬんより、ひだまりの情景が
なんだか自分が今、求めているようなもののような気がして
Amazonでポチる。
窓辺のひだまりと、びいどろと私。

『うみべのストーブ』の帯に
”このマンガがすごい!2024 オンナ編 第1位”って書いてるから
マンガをあまり読まない私にも、
わかりやすく笑ったり泣いたりなのかな?くらいの気持ちで読み始めると
いい意味で裏切られる。
さすが、まちゃお推し。
7つの短編からできているこの作品は、
日々、仕事やプライベートに葛藤している7人の女性が主人公で
それぞれが独立している物語だけど、全てに共通しているのが ”雪”

雪が降りだすシーンや、大雪の中のファミレス、新雪の上を歩くシーン。
個人的に思ったのだけれど
雪を描くと、なんだかマンガなのにすごく”静か”
静かなゆえに、登場人物の吐く息の白さや、雪の上にできる足跡が
印象に残った。
そして、彼女たちのモヤモヤした”重い”感情の描写の後
ページをめくれば何度となく出てくる、
見開き1ページ使って書かれている景色の描写が、重たい彼女たちの気持ちを、
跳ね除けるみたいに”軽い”

このマンガを読んだ直後にご来店頂いたお客様、Nさん。
Nさんは月1回ペースで、ヘナカラーでご来店くださる。
永くケアマネージャーとして忙しくお仕事をされていて、
Nさんから聞く様々な介護のお話は、すべて現場で経験している
高齢化社会・日本の現状だ。
介護が必要な高齢者、その家族も含めて
理不尽な態度や、言葉を浴びせられることも多々ある。
「こんな、安月給でやってられるかい!」と私の前で言いながらも、
利用者さんの家族からの、とんでもない電話を丁寧に対応し切った後
「なんでやねん!」と受話器にぼやいたりしながらも
かれこれケアマネ、20年選手。尊敬しかない。

Nさんが先日、ある利用者さんのご自宅を訪問することになった。
それも、山の上の上の上にあるご自宅に行くことになり
普段は普通の自転車だが、この日は電動自転車を会社から借りて
山を登った。
無事に訪問を終えて、家を出る時は外はもう真っ暗。
街灯無し、ところどころに点在する、ご近所のお家の窓からの明かりだけを頼りに、
来た道らしきところを行く。
ボーっとする位、暖房がきいていたお家を出たせいか
気温が下がった山手の道は、ひんやりとしていて、とても気持ちがよかったらしい。
そして一本目のカーブを曲がった瞬間
「あ!」
暗闇に思わず声を出し、自転車を止めたNさんの前には
大パノラマのキラキラ光る夜景という、ご褒美が広がっていた。
「もうさ。それだけで、私って、ええ仕事してるなぁ~。とおもてん」
パノラマの夜景を見るだけで
機嫌良くなれて、そのちょっと湧き出た余裕さで
人に、仕事に、世間に、優しくなれる。
Nさんも私も、おそらく多くの人の日常は、その繰り返しなんだと思う。
繰り返して、繰り返して、ある時ふっと身体が軽くなる瞬間、
自分が積み重ねてきたもので出来上がった山の上に立って
そこに広がる景色を眺めたら、また次に進める気持ちになるのだろう。
今年もラスト1ヶ月。
思い切りお仕事してご褒美は、窓辺のひだまりに向かって、うたた寝したい。
<おまけ>
『うみべのストーブ』の帯に書かれてありました
俵 万智さんのコメントを最後に。
「小蟹さんの澄んだ心の目。
そのまなざしを借りて私たちは、忘れそうなほど小さくて、
でもとても大切な何かを見つめなおす。
確かに降ってきたけれど、とっておけない雪のように」
