レガシー

この夏、サマージャンボ7億円を逃した運は
開催中の大阪万博、9月の”入れない万博”状態の中で
「三菱未来館」と「住友館」を体験するという大幸運に変わる。
日本が誇るトップ企業が
長い時間をかけてこの万博の為に創り出したパビリオンでの
”いのち”がどこからやってきて、今、どこへ向かっているのか?の物語は
次世代を担う子供たちへの希望に満ちたメッセージであり、
ふんわり半世紀を生きてきた大阪のおばちゃんにとっても、
心に響くキーワードが幾つも散りばめてあり、振り返っては、噛みしめる日々が続いている。
「オンラインでつながれる時代に、あえて万博と言う場を作る意味って?」
という問いに、こんな風に答えが書かれてある。
”それは、きっと偶然の出会いを作ること。
(中略)
万博は目的じゃない。ただの手段です。
何かが生まれてくるかもしれない場所。
それをつくることにこそ、意味があります。
人間は、集まって、交わって、
少しずつ進んできた生き物だから”
”偶然出会い”
その言葉通り、万博があったから出会えたお客様がいる。
期間限定であったけれど、新しいヘアスタイルやメイクを
積極的にチャレンジしてくださり、
この先、何年後かに万博を思い出した時
お客様と万博はいつもセットで記憶がよみがえるだろう。
今回の大阪万博が始まる前、
ネガティブな報道が世間では多く流れていた様に感じたが
万博のチケットの販売が始まると、
早くから通期パスを手にされている方、アプリを取ってパビリオンの事前予約をされている方が
実はお客様の中にも、たくさんいらっしゃった。
「万博推進派です」と公言し、
地元・大阪でやると決まったんなら、つべこべ言わず盛り上げよう!という
いい感じにどんどんむき出しになっていった”地元愛”みたいなものを
私は肌で感じていた。
万博が始まる前に読んだ新聞記事で、お気に入りのものがある。
ずっとずっと昔から知らない内に受け継がれている
大阪の人の心の底に流れているものがわかる。
1970年の大阪万博のレガシー(遺産)である国立民族学博物館の館長であり、
今回の2025年の万博のシニアアドバイザーを務める
吉田憲司さんのインタビュー記事(朝日新聞)
長い日本の歴史で、東京一極集中がこれほど進んだことは無く
明らかに異常な状況だと、吉田さんは危惧する。
仕事柄、日本各所を回ることが多いが、県庁所在地でもシャッター商店街が
目立つなど地方の疲弊は本当に顕著になってきている中、
「今回の万博がこの状況を変えるきっかけにならないかと思っている」
そして、
「日本の歴史で大阪ほど重層的な文化を持っている地域はありません。
万博を機に、大阪が旗振り役となって
日本全体が元気になるきっかけをつかめないかと考えているところです」
(インタビュー記事は万博準備中の2024年9月のもの)
吉田さんの言う大阪の文化の重層性とは、
「古くは都の難波宮が置かれ、その後は
天王寺や石山本願寺に代表される宗教都市であり、
大阪城の城下町であり、
陸海の交通の要衝であることから天下の台所となり、
産業都市にもなりました。
しかも、それぞれの時代に
太子信仰、茶道、文楽、歌舞伎など、今に残る文化を生み出しました。」
その他にも
江戸時代以降、東京が政治の中心として『官』による
都市の整備が進んだのに対し、
大阪は『民』の力で発展した事や
朱子学が強かった江戸に対し、
自由度が高く海路で長崎ともつながりがある大阪は蘭学が強く、
明治維新の英傑を多く輩出した適塾もこの流れにあること。
自由で自立した気風が今も大阪には強くあり、
大阪市中央公会堂、大阪城天守閣、大阪大学、『こども本の森 中之島』
など、豪商からの寄付や寄贈でできたものが
今も街を支えていること。
これらを踏まえ、吉田さんは言う。
「大阪がこうしたアイデンティティーを失わないこと、
東京とは異なる文化圏が国内にある重要性が認識されることは
とても大切なことです」
今回の万博は
大阪に誘致が決まったのが2018年。そこから、
世界中の人々が目に見えないウイルスに振り回された、コロナ禍を経験した後
偶然にも『いのち輝く未来社会のデザイン』という
命に焦点を当てた万博になった。
1970年の万博の跡地に建ち、
今は世界の文化を紹介する国立民族学博物館は
まぎれもない万博のレガシー(遺産)なのだが
では、今回の万博のレガシーとは、何か?という質問に対し
吉田さんの答えが、私を今回の万博へと足を向かせた。
「人間の活動が地球環境に不可逆的な負荷を与えていることが自覚され、
それに対する全人類が協働しての対応が
求められています。
それなのに、世界では分断が進んでいます。
そのような時代の中で、世界中から人が集まり、
同じ時空を共有するという万博の機会が
人間中心の世界観から脱却して、
人類がウイルスから動植物までも
包含した『生命圏』の一部であり、
すべての命への責任を果たしていこうとの
共通の考え方がつくり出せたなら、
それこそが、
”今回の万博の最大のレガシー”に
なるのではないでしょうか」
人に自然に、日本に世界に、なんなら宇宙規模で
本当に豊かな世界ってどんなだろうと
たくさんの人が本気で知恵を出し合い、汗をかいて
実現した万博に、
大阪で昔から受け継がれる
自由に自分達の表現の仕方を考えつく
『民』の力が合わさって
箱物ではない、大きなレガシーが出来上がる。
そのひと欠片になれたとしたら
とても嬉しい。
今年の大阪は本当に熱かった。