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上機嫌の才能

年に一度、大掃除を兼ねて断捨離を実行する日があります。

しかも、年末ではなく ”夏”

 

なぜ、夏か。

どこを拭いても、何を洗っても、直ぐ乾く。

今年も、いつ実行するのか模索しています。

 

物を捨てるのが、好き。

結構、ポイポイ捨てれます。

物への愛着とか思い出とかで残しているのは、

小学校から高校位の時までのモノで、ちゃんと実家にあるし、

そこからの人生に、手に入れたものに対する愛着とかそういった類のものは

ほとんどないです。

 

なぜか? 考えてみると

結論ー

働き出してからは、常になんだか忙しくて、思い出に浸ってる暇がなかった。

それに、

絶対に、これが欲しいぃぃぃ。と思う”物”がそれほど無かったと思います。

 

でも唯一、捨てれない物が、田辺聖子さんの本。

20代後半くらいにお客様からの推薦で読みだした

田辺聖子さんの代表作。”乃里子3部作”こと

『言い寄る』『私的生活』『苺をつぶしながら』はもちろんのこと

他にもたくさん集めて読みました。

自宅の本棚の一角を陣取る田辺聖子本は、不動のポジションです。

今回の店長日記のタイトル『上機嫌の才能』は

田辺聖子さんのエッセイ本のタイトルをお借りしました。

その理由には、ちょっとしたワケがあります。

今月、私の推し、文筆家・大平一枝さんのオンライン講座に参加しました。

婦人之友社が主催の「書いて伝える技術」という講座の中で

大平さんは、SNSがこれだけ普及した今は

「テキストコミュニケーションの時代」

つまり、”文字”で伝えかつ、”発表する場所”がたくさんできたと言います。

 

良い文章を書くために、必要なことは、

1つは、本をたくさん読むこと。

文章の書き出しに困った時、自分の好きな作家の本を開き、ヒントを得るという大平さん。

画面越しに見た大平さんの推薦する本には、付箋がびっしり張られてある本もありました。

さっそく、推しが薦めた小川洋子さんのエッセイ

『遠慮深いうたた寝』を読んでみると、

日常の中で起こる小さな出来事が、小説家ならではの想像力で

ストーリーが思わぬ方向に飛躍していき、最後のオチには思わず電車の中で

「ムフフ」と声を抑えて顔だけ笑ってる、キモいおばちゃんが一人。

新しい試みのあれこれを、知人に話したら

「ほんま、自分を楽しませる技、わかってるな~」と返ってきました。

この知人は、本当に読書家。やっぱりたくさんの”言葉”を持っていて

ここ一番で、ハッとするような言葉をくれるのです。

なぜ、本を読むのか?と考えた時、

言葉を掻き集め、誰かの何かの時まで、手元に閉まっておきたいからだと思います。

 

講座の後、自分の好きな作家の文章を読んでみたくなり、

久しぶりに本棚の田辺聖子さんの本を見て、

「自分を楽しませる技を知っている」の言葉が脳みそに残っていたのだろう、

手にしたのは『上機嫌の才能』でした。

 

度々、田辺聖子さんの言葉に立ち止まり、無造作にページをめくっていると

ふと、しおりが挟まっているページを見つけます。そこには、

 

【幸運はこっそり味わうもの】

人生の幸福と言うのは、(オトナの本音でいえば)

一、手にあう程度の仕事をして、

 

二、いつも人生コースの五、六番目か、もっと後ろを走っていること。

オリンピックのご褒美も、金銀銅と三番目までだもの。

なんせ、目立たないのがいい。ビリも目立つ。

 

三、というのも人に憎まれず、敵を作らず。

人に妬まれるほどの幸運をむさぼらないこと。

 

四、幸運はこっそり味わうもの。

家庭を愛し、仕事を大事に思い、そのひそやかな幸運を守るため、

薄氷を踏む思いで生きる。

 

ーと、まあ、そういうのが”幸運の秘訣(オトナの本音による)というものである

ーと思っている。

(『上機嫌の才能』より)

 

 

小川洋子さんの『遠慮深いうたた寝』の中で

”小人か妖精の仕業”という短編があり、

買ったはずの電車の切符がなくて、改札を出れない小川さんは

 

「ついさっき仕舞ったはずの場所に無いのであれば、

目に見えないくらいの小人か、気配を消した妖精の仕業だと考えるのが妥当である。

例えば、それ一枚あれば、

くたびれた三角帽子を新品に取り換えられる。

あるいは破れた羽を元通り修理できる(中略)

小人や妖精のために役立ったのなら、それもよかろう、と私は思った」

 

物を気前よく捨てれるように、物をよく失う私の周りには、小人か妖精がいるようだ。

 

『上機嫌の才能』が発売されてすぐに購入したことだけは覚えていて、

発行された日を見ると”平成23年9月” なんと16年前。

読書家の知人→大平さん→小川さんというルートに

言葉の種があり

16年前の田辺聖子さんの【幸運はこっそり味わうもの】に導かれていきます。

 

自分が目指すべき生き方を。幸せの在り方を。

ひょっとすると、16年前の私はちゃんと知っていた。

まさか、答え合わせの日がくるなんて。

小人か妖精の仕業かな。