「たのもしさ」
段ボール箱にいろんなものを詰め込んで、お店に送ってきてくれる友人がいる。
なぜか、いつも突然に。オシャレに言えば、サプライズ。
段ボール箱の中身を見ると
まるで上京した息子を案じ、あれもこれもと荷物に入れたがる母親のようだ。
今年の年明け早々にも、サプライズで届いた。
箱の中身は、
年末の家族行事のお餅つきで作ったお餅。その破片で作った揚げ餅。
好きなコーヒー屋さんで挽いてもらったコーヒー。私の好きそうなお菓子。
(最近ハマっていると聞いた)美術展で購入するポストカードにメッセージ。
そしてー
司馬遼太郎 著『21世紀に生きる君たちへ』

本を開いた1ページ目。この文章から始まる。
「人間は、鎖の一環ですね。はるかな過去から未来にのびてゆく鎖の。」
司馬遼太郎さんが
小学校6年生の国語教科書のために書き下ろしたもので、
1989年に書き下ろしたとされるこの本。
つまり、21世紀を生きることができない司馬遼太郎さんが
未来を生きる子供たちに向けて書いた手紙のようだった。

子供たちに伝えたい事。一つ目は、自然について。
空気と水、それに土などという自然によって
”人間は生かされている”ということ。
人間は、空気を吸わないと生きていけないし、
水分を取ることがなければ、乾いて死んでしまう。
歴史の中の人々は、
自然をおそれ、その力をあがめ、自分たちの上にあるものとして
身をつつしんできた。
それが、現代において揺らぎ
”人間こそ、一番偉い存在だ”という思い上がった考えが出てくる。
が、しかし、司馬遼太郎さんは言う。
”おそらく、自然に対して威張りかえっていた時代は、
21世紀に近づくにつれて、終わっていくにちがいない。”
なぜかー
”人間は、決して愚かではない。
思いあがるということとはおよそ逆のことも、あわせ考えた。
つまり、私ども人間とは自然の一部にすぎない、という
素直な考えである。”
私は司馬さんの作品に、いつも
”人間”と言うものに対して諦めないで欲しい。
人間って、世の中って「捨てたもんじゃないぜ」と伝わってくる。

そして、二つ目。君たち自身の事。
「自己を確立せよ」ー自分に厳しく、相手にはやさしく。
そして、素直でかしこい自己を。
”21世紀においては、特にそのことが重要である。”
まるで預言者のように書く。
21世紀には科学と技術がもっと発展する。
科学・技術が、洪水のように人間を飲み込んでしまってはならない。
川の水を正しく流すように、
自分たちのしっかりとした自己が、科学と技術を支配し、
良い方向へ持っていってほしい。
予言もするし、過去の歴史にも詳しい司馬遼太郎さんから
面白いことを教えてもらう。
”鎌倉時代の武士たちは「たのもしさ」という事を
大切にしてきた。”
自分に厳しく、相手に優しく。他人をいたわること。
これらは、本能ではなく、訓練しないと身につかない。
鎌倉時代は、男女共に”たのもしい人”が魅力的だったそうだ。
生きていくうえで、欠かせない心構えは
「訓練しないと身につかない」って沁みる。。。。。
大人になってからの訓練は、なかなかの矯正ギプスが必要になる。

この本の最後の章のタイトルは「洪庵のたいまつ」
司馬さんは”美しい生涯を送った人について語りたい”とし、
緒方洪庵の生涯を書いた。
緒方洪庵の開いた”適塾”のことにも触れていて
有難いことに、通っている皮膚科の目の前が”適塾”なので行ってみると
受付に、昨年ノーベル生理学・医学賞を受賞した
大阪大学の坂口志文教授のサインが飾られてあった。
(今、適塾は大阪大学が管理している)

大阪に適塾を開き人材を育て、医師としては、天然痘の治療に大きく貢献した
日本の近代医学の祖といわれる洪庵の一生で、
身体が二つあっても足りないくらい忙しかったが、
最も楽しかったのは彼が塾生たちを教育していた時代だったろうと
司馬さんは言う。
洪庵の偉大さは、自分の恩師から引き継いだ、たいまつの火を、
弟子、一人一人に移し続けたことである。
弟子たちのたいまつの火は、いろんな分野で輝き、
その火の群れは、日本の近代を照らす大きな明かりになった。

坂口教授も、
洪庵のたいまつの火を受け継いで、ずっと火種を消さずにご自身の分野で輝かせ、
そして、次の時代へと鎖を繋ぐ人になった。
努力とか、根性とか、たのもしくとか
そういう言葉にアレルギーを起こす人が増えていく時代に
それでも伝えたいと思い願った
司馬さんのたいまつの火は、
未来の誰かが受け継ぎ、誰かのために明かりを照らすと信じよう。
過去から未来へ伸びる鎖が
私の部分で錆びてしまわないように、
心はいつも、鎌倉時代の武士のごとく、たのもしく生きるのだ。
