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裏テーマ

「ジーリャオ」

中国の人は、鳴き声がそう聞こえるらしく、”セミ”の事だと言う。

漢字では「知了」と書き、

”わかった、知っている”と言った意味になる。

 

日に日に大音量になり、夏を本番に導く鳴き声は

今月読んだ、朝日新聞・天声人語のセミの話を深めてくれる。

 

天声人語の筆者と同じく、私も最初は

”はて?セミはそんなに物知りだったか。いったい何を知っているのだろう?”と思った。

5月と今月の2回にわたって受けた、文筆家の大平さんのオンラインセミナー

『書いて伝える技術』講座。

今回の講座では、

何を書く時も、生涯のテーマ(裏テーマ)を持っていると話してくださった。

大平さんの裏テーマは

「大量生産、大量消費の反対側に生きる人たちを書きたいと思う。

手間がかかるけど良い物、良い習慣。

書き留めておかないと消えてしまうようなものを書き留めたい。」

 

この裏テーマを持ち、世の中を見た時に自分のフィルターに引っ掛かる

見逃せない”ちっちゃな違和感”にこそ、「なぜ、これを書くのか?」の答えがある。と言う。

以前、大平さんは女優の柴咲コウさんと、

日本全国の農家や伝統工芸の現場を取材でまわったことがあり、

「なぜ、何も苦労せずとも何でも手に入れられる女優さんが

こんな泥臭い現場の取材の仕事を受けたのだろうか?」と思ったことがあった。

一緒に仕事をしながら、自分の裏テーマのフィルターを通して見える、

自分にしか書けない、柴咲コウさんを書こうと思った。とおっしゃっていた。

 

私の友達にも、別にお仕事をしなくても、全く問題なく生きていける人がいる。

生まれた時から、とても綺麗で、とても裕福。

だけど、ずーっと、真面目に地道に続けてきたお仕事があり、

さらなるチャレンジの為に、今春会社をつくり、さらに仕事をもらう為に自ら営業に出ている。

 

新しく立ち上げた会社のホームページには、

「私自身、持っている力は、人に使ってもらって初めて生きてくる」

と言う、

彼女自身で気づいた、力強い彼女の裏テーマがあった。

 

天声人語では、

「延々とする蝉時雨の中に、ほんのひととき間が生じ、

ジジジの音が途切れ、すっと風が吹くのを感じた」

その情景の

一瞬の静けさとその涼が、この猛暑の中でしか感じれない美しさを

セミは「知っているよ」と歌っているのだと解釈する。

 

1945年の夏、

当時18歳だった作家の石牟礼道子さんは、熊本県の小さな村の小学校で

教員をしていた。

”あの日は、山で松の根を掘っていたという。

敵機の音もなく、セミの声だけがあたりに響いていた。

やがて、お日さまの光のなか、ふっと、鳴き声がやんだそうだ。

その瞬間、この世のすべての音が消えるような静寂を、彼女は知った。

「きょうはとても静かだなぁ」

宿舎に戻ると、戦争が終わっていた”

(2025/7/27 朝日新聞 天声人語より)

 

セミの大合唱を聞きながら

音が途切れる瞬間の静寂と、そこに潜む何かに出会いたくて、

通勤道は耳をそばだてる。

そんな私の欲を知っているのか、セミは今日も延々、歌っている。