NEWS
お知らせ

  1. TOP
  2. 店長日記
  3. 『在る』から『成る』へ

『在る』から『成る』へ

ずっと、頭のどこかに残っている”言葉”って

やっぱりずっと、

自分では気づかないうちに、頭や心の中にアンテナが立っていて

脳科学的に立証されているようだけど

自分の脳が、そういう気になるモノを見ようとするのか

その”言葉”に吸い寄せられるかのように

たくさんの言葉がその側に集まることがあります。

そして、それは長い年月をかけて集まってくることもあります。

今年、9月と10月。

ちょっと、不思議な事がありました。

お二人のご新規のお客様から、ご来店頂いたときに聞いた言葉。

「2年前から、このお店(Mue)の事が気になってて、

ここに来ようと決めてました」

お二人のご新規のお客様は、お友達同士では無く、全く知らない人同士。

なぜか、お二人とも2年の歳月を経て、ほば同時期にご来店してくださった。

そして、このお二人の言葉をきっかけに

また、私の中でずっと頭の中に残っている”言葉”が存在感を増していきます。

さかのぼること、これもまた、偶然ですが2年前。

店長日記にも書いた、2年前の夏至の日。

私は、この日の事がずっと頭に残っていました。

 

謎の”アキラ君”という中学生の男の子が飛び込みでカットにご来店してくれた日。

私はこの日、このアキラ君カットを終えてから、

お店の材料費の振り込みに銀行へ向かいました。

振り込みを終えた帰り道、

私が以前から気になっていた、お洋服屋さんの前を通って帰ろうと思い付き

帰り道をルート変更。

そんなに大きいお店では無く、いつもお店の前にディスプレイされているお洋服が

少し変わっていて、色の合わせ方も素敵だな。と。

大きなドライフラワーのススキがお店のドアの前に飾ってあるのも

目を引いていました。

小さな窓から見えるお店の中も、素敵だな。

 

そのお店の前を通った時、たまたまお店のドアが開いていて、お店の中を見た時に

バッチリ店主の女性の方と目が合ってしまい、

なんとなく中に入ってしまったのです。

その時の私は仕事の途中で来たので、

ヘアカラーが飛んであちこち汚れているブラウス。

足元は仕事用の足への負担が少ないサンダル、リゲッタ。

お店の中はアンティーク調の素敵な雰囲気に、

間違いなくいいお値段なんだろうなというお洋服が良い配置で並んでいる。

場違いすぎる。。。。早く出よう。

と思った時に店主の女性が

「これ、似合うと思います!」

といって、黒のロング丈の麻のワンピースを私にあててきました。

「お客様ぐらいの身長じゃないと、このお洋服は着こなせないし、

何よりも、この”黒”はお客様のお肌の色に似合う”黒”なんです」

見た目、ロックでパンクな女性店主に、私はちょっとビビりながら

「そうですか?」しか言えない。

でも、お洋服に触れた時の感触は、間違いなく”良いモノ”であり

鏡に映るシルエットも、すごく綺麗だった。

 

大きなアンティークの鏡に二人で映りながら、

色々なお洋服を持ってきては、私の首から下にあてて

ああでもない、こうでもないと言ってくれました。

今日は仕事中に抜け出してここに来たから、汚れた服で来てしまってごめんなさい。

と言うと、話題はお店の話に。

去年、お店(Mue)をオープンさせたばかりだと言うと

パンキッシュな女性店主も、

まだ自分もオープンして間もないから、たくさんのお客様が来店しているわけでは無いけれど。

 

「さっきまでいてた、取引先の会社の方が言ってたんだけど

お店って『そこに在る』っていうのが大事なんだって。

お店を営業していたら、必ず誰かがそこに在るのを見ていて

”たしか、あそこにあんなお店あったよな”という意識は、

”在る”から広がるんだって」

 

そう言われればMueのお客様で、元料亭の女将さんだった方からも以前、

「3年間、定休日だけでこの場所でやり切ったというのは、大きい」

と言ってもらえて、うれしかった。

私のお店は、特別なものは何もないけど、確かにそこに”在った”

結局、この日、

私はお金もないのにこの黒の麻のワンピースを買っちゃいました。

先に行って振り込んだ材料費の半分のお値段。

パンク女子も私が買うといった瞬間、明らかに大喜びしてくれ、

「価値の高いお洋服は、着る人をその価値に似合うところまで

いつか、引き上げてくれますよ」だそう。

 

「この服を買おうと思った決め手は何ですか?」

と聞かれて

「う~ん。。。

今日は、夏至だから。だから(買った)」と私。

本当に、それが一番しっくりくる、その時の理由だったと思います。

 

2023年11月21日火曜日 朝日新聞

”折々のことば”

人間の成り方、それを我々は「存在」という概念によって現わそうとする。

(和辻哲郎)

 

”個人は「もの」として何か実体のようにあるのではなく、

さまざまな行為の重なりや連なりの中にある。

だから人間はつねに成るものだと、哲学者は言う。

英語のビーイングや独語のザインとは違って、

「存」は「忘失」に対する保持を表し、

「在」は去るのとは逆に、ある社会的な場所に居ることを表す。

そのように去来する動的なものとして人はあると。

『倫理学』から。”

(原文そのままです)

 

Mueは来年、5年目を迎える。

”在る”場所に居ながら、

流されているようで、時間は連なっていて、経験は重なっていくのかな。

”成る”という感覚を感じるようになりたい。