ふきのとう

お店の窓際に飾っている、絵。
80代のお客様の作品です。
毎月、杖を突きながらも電車に乗り、お店の3階までの階段を昇ってきてくださります。
今月の絵は、”フキノトウ”
この一枚の絵から始まるお客様との会話。
「あ、フキノトウ。
開きすぎると、食べれなくなるよね。もう、(この絵)けっこう開いてる方だけど」
「よく、ご存知ですね」
「実家が田舎だったからね。家の裏にたくさんあったから」
大阪生まれ大阪育ち、体育会系で大人になった私は
(いや、別にこれは関係ないか)
この絵が”フキノトウ”だなんて。。。
さらに、フキとフキノトウが同じ植物の異なる部位だなんて。。。。。
また一つ、賢くなりました。
この窓際の絵を描くご婦人は、たくさん本を読みます。
いつも帰りに新大阪の駅の構内にある本屋さんによって帰るそうで、
さらに、読んだ本のタイトル、内容、日付けを
お気に入りの薄ピンクの手帳に書き込んでいます。
なかでも、雑誌『暮らしの手帖』は、かなり長く愛読されています。
今回の『暮らしの手帖』は創刊77年目のリニューアル。
ページをめくって最初の言葉は、
*
春の陽が昇り、新しい一日が始まります。
家の中のこまごましたこと、
世の中を動かす大きな出来事。
そのどちらもが等しい重さを持ち、
「暮らし」は両方からできている。
*
3月って、私はなんだか苦手です。
春を迎える前、繁忙期がゆえの疲れもあると思うけど、
ちょっと重い空気みたいなものが自分にのしかかっている感じがします。
お客様にも同様、
卒入学、新年度に向けての移動など、”節目”に立った時に
希望通りに事が進んだお客様もいれば、そうでなかった人もいる。
だからと言って、私が何かできるわけでもなく、
ただ、それでも続くその人の暮らしを応援したいと思う。
振り返れば早い3月の途中には、いつも少し遅くて重い時間帯があります。
今月は鵜飼先生に来ていただいてお客様のメイクレッスンの日と
卒業式の袴のお支度のセットメイクの日と
いつものサロンワークだけではない事も経験できました。
メイクの鵜飼先生、着付けの川添さんのお仕事は
お客様の目の前で提供される技術、仕上がりは、もちろんのこと、
お客様には見えない所での当日までの準備が徹底されています。
今月の初めから何度も何度も連絡を取り合い、チェックする事項はそのたびに増え
起こりうる不安要素は、全てすぐに消していく。
当日は当然、無駄のない動きと
初めて触れるお客様にも関わらず、想定外のことも想定内に持っていける技術は
ずっと見ていたい気持ちになりました。
先日読んだ
吉本ばななさんのこの言葉を思い出す。
”お金になるほどのスキルっていうのは、
当てずっぽうや思い付きや才能のきらめきでは育たないし、出現しないです。
だから「対価」と言うものがあるのだと思います。”
袴のお支度も終わり、帰ろうとしたら
「駅まで送りますよ。
送るの旦那なんですけど。私、今から家族のお弁当作らなあかんので」
つい何分か前まで、着付けに燃えていた技術者は、
イレギュラーな仕事も終われば戻る、いつもの彼女の暮らしがある。
”仕事”も”家庭”も両方同じ重さで頑張る母の背中を見て育った娘さんも
同じく美容師。
この日、朝5時には既にスタンバイしてくれていて
母の着付け、私のセットのアシスタントとして、素晴らしい動きを見せてくれました。
”自分の強みってなんだろう”
最寄りの駅までバスで帰ることにした私は、流れていく懐かしい景色を見ながら考えた。
しばらくして、降ってきた答えは
”カットで勝負していこう。自分が一番大事にしたい技術は、やっぱり、カットだ”
フキノトウの絵からの会話をもう一つ。
「フキノトウは苦みがあるけど、今の時期に食べておくと
夏バテしない身体を作るのよ。”先人の知恵”ってすごいと思わない?」
雪解けとともに芽吹く、フキノトウ。
四季のある日本に、
脈々と受け継がれている知恵や経験を、知ることで私達の暮らしは豊かになる。
*
ーあなたが考える『暮らしの豊かさ」とは?
おいしいなと思いながら、毎食のごはんを食べられること。
今日もまずまずだったなと思いながら布団に入れること。
自分だけでなく、隣の人の暮らしのことも思いやれること。
(暮らしの手帳より)