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伝えていくこと

 

『むずかしいことをやさしく、

やさしいことをふかく、

ふかいことをゆかいに、

ゆかいなことをまじめに書くこと』

作家の井上ひさしさんの言葉です。

 

この言葉に初めて出会ったのは、もう何年も前に読んだ本でした。

その時も気になって、ノートに書き写したことを覚えています。

先日、たまたま読んでいたコラムの最後に、この井上ひさしさんの言葉が出て来て

また、こうして”伝える”という事を考えるきっかけをもらいます。

 

このコラムとは別に

8月6日の朝日新聞の天声人語にも、井上ひさしさんの事が

書かれてありました。

井上ひさしさんの戯曲『父と暮らせば』

原爆で亡くなった父が幽霊になって現れ、娘の恋を応援する。

しかし、娘は、火の海に父親を置き去りにした罪悪感から

自らの恋心にふたをしている。

 

井上ひさしさんは、一つの作品のために膨大な資料を集め、

被爆者の手記は数百篇も読んで、ノートに写し

「『これら切ない言葉よ、世界中に広がれ』と

何百回となく呟きながら書いてました」

と井上ひさしさんがエッセーに残しているそうです。

一か月前にMueの内装をデザイン、施工してくださった

サカグチワークスの岩田さんから誘われたイベント

「トロピカルビルパラダイス」

岩田さんは、このイベントへの熱い気持ちを

ご自身のFacebookにて語っています。

「とにかく皆さんに、ひと目、70才目前の、

高度経済成長期からの大阪の歴史がギューっと詰まった味園ビルの姿を、

目に焼き付けに来てほしいです。」と

 

このイベントは、サカグチワークスさんも参加している

BMC(ビルマニアカフェ)という

1950年代から70年代のビルを、こよなく愛するビルマニアな人たちによる

イベントです。

戦前に建てられたビルはレトロで人気があるのに

戦後1950~70年代に建てられたビルは、そこまで人気がない。

BMCのメンバーは、この戦後ビルに魅力を感じて集まり

「ピンと来てない人に、教えないと!」とイベントを開催したり、

写真集や本を出版したりしています。

特に、今回開催した”味園ビル”そしてこのビルの中でも

元キャバレーであるユニバースは、とびきりの別格だと岩田さんは言います。

BMCが好きな高度経済成長期に生まれたいいビルは

「費用がかかろうが、夢があって世間に無いモノを作りたかった」

という施工主によるものが多いそうで、

まだ知らない人にココを見せたい、体感してほしい!

という思いだけで作った今回のイベント。

”たくさんの人の心の中に、ユニバースが永遠に輝きますように”

とインスタグラムでも書かれています。

井上ひさしさんのような方は、もうこの世にはいなくて、

私もそうですが、戦争を語れる人も少なくなってきました。

同じように、岩田さんたちが楽しいイベントをしても、

味園ビルはまもなく無くなってしまいます。

でも、その悲しいことを、

そのまま悲しいと伝えてしまうと、

あのイベント当日、700人もの人が集まり

かつてのキャバレーのダンスステージでみんなが輪になって

河内屋菊水丸さんの盆踊りで盛り上がることなんて

成し得なかったと思います。

まさに、冒頭の井上ひさしさんの言葉を体現したような

イベントでした。

 

『父と暮らせば』の最後で父は、

自分の分まで生きろと娘に力づけます。

「人間のかなしかったこと、たのしかったこと、

それを伝えるんがおまいの仕事じゃろうが」

 

きっと、みんながどこかで誰かの為にするべき事の一つは

”伝える”